新耐震基準について徹底解説!レジリエンスの高い企業になるには?
地震大国の日本では、地震災害に対して危機管理能力が企業に求められています。そのような中で、レジリエンスという言葉が日本でも使われるようになりました。レジリエンスとは、予期せぬ災害や危機に直面した際に迅速に対応し、ビジネスを継続させる能力と定義されています。企業においてレジリエンスを高めるための要素の1つがオフィスの耐震性です。
この記事では、1981年に導入された新耐震基準の基本的な部分を説明します。地震に対するリスクをできるだけ減らし、従業員の安全確保や業務の早期再開をするために何をするべきかを解説します。従業員を守るための大切な情報が詰まっておりますので、ぜひ最後までお読みください。
オフィスの新耐震基準とは?
大企業から中堅・中小企業の過半数がレジリエンスを重要視しています。株式会社日本政策投資銀行が行った「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」ではオフィスビルの選択基準のうち重要度が高い項目(レジリエンス関連)において耐震性と答えた割合が一番多く、大企業で91.3%、中小企業で72.1%という結果でした。その結果は東京23区、大阪市、名古屋市などに差が見られず、総じて高い割合になっています。
耐震基準とは?
耐震基準とは、建築基準法によって定められています。建物が一定の強さの地震に対して倒壊や崩壊せずに耐えられるかを測る基準で、建築設計において最も重要視される基準のひとつです。
旧耐震基準とは?(震度5程度を想定)
1950年から1981年5月31日まで適用されていた耐震基準のことで、1981年6月1日よりも前に建築確認を受けた物件に適用されている耐震基準となります。旧耐震基準では、震度5程度の中規模地震に対して建物が倒壊や崩壊しないことを前提としていました。地震が起こったときに、建物の自重の20%くらいの力が建物にかかっても、壊れないように材料の強度に余裕を持たせた設計が行われています。
新耐震基準とは?(震度6以上を想定)
1981年以降に施行された建築基準法改正に基づいた基準のことで、震度6強から7程度の大規模地震で倒壊・崩壊しないことを前提に定められました。新耐震基準では、旧耐震基準に比べて細かな構造計算や厳密な設計が行われており、耐震性能が大幅に向上しています。大地震の強い横揺れに建物が耐えられるかを計算し、建物の構造部分がどれだけの力まで耐えられるかを調べます。
新耐震基準の中高層ビルでは、耐震構造に加えて地震の揺れを吸収する制振構造や揺れを受けにくくする免震構造が採用されてきました。加えて基礎の強化を行い、特別な鋼材や高強度のコンクリートを使用することで、さらに耐震性能が向上しています。従業員の安全を確保してビジネスを継続するためには、新耐震基準を満たしたオフィスビルの入居が望ましいでしょう。
耐震性を判断するためのポイント
①「竣工日」ではなく「建築確認日」を確認
耐震性は竣工日や築年数だけでは判断ができません。旧耐震基準と新耐震基準との境目は1981年6月1日ですが、着目するのは「いつ竣工されたか」ではありません。一般的な工期の目安としては、鉄筋コンクリート造のビルで(階数 × 1カ月)+ 3カ月といわれています。建物によって工期が異なるため、竣工日から逆算して新旧どちらの耐震基準であるかは判断できません。
判断すべきポイントは、「建築確認」を受けたのが1981年6月1日以降であるか、それよりも前であるかになります。建築確認とは建築する際に、計画が建築基準法や関連法規に適合しているかを確認する制度です。建築確認の審査は、まず建築予定の物件について確認を申し込む「建築確認申請」が行われ、基準を満たしていることが確認されると「建築確認済証」が発行されます。
つまり1981年の5月31日までに建築確認済証が発行されている場合は旧耐震基準での確認がされており、6月1日以降であれば新耐震基準での確認が行われていることを表しています。
建築工事の流れ
- 建築計画の作成
- 建築確認(建築確認申請、建築確認済証交付)←1981年6月1日以降であれば新耐震基準
- 建築着工
- 中間検査(中間検査申請、中間検査合格証交付)
- 工事完了(竣工)
- 完了検査(完了検査申請、検査済証交付)施主への引き渡し
②耐震構造を確認
耐震構造(地震の揺れに耐える構造)
耐震構造は、地震の水平方向の揺れに対して建物が耐えられるように柱や梁、壁といった構造部材を強化する構造のことです。制振構造や免震構造のように揺れを抑えるのではなく、建物全体が揺れに耐えられるように構造を強化しています。具体的には、建物の強度を上げるために壁や柱、鉄骨などを強化したり、鉄筋の数を増やしたりする方法を用います。耐震構造はシンプルな設計のため、他の耐震構造に比べて建築費が低く、工期が短く、メンテナンスが容易なため中低層のオフィスビルで多く採用されてきました。
制震構造(地震の揺れを吸収する構造)
制震構造は、建物の構造体に取り付けた制震ダンパーや制震壁が建物の振動を抑え、建物の揺れを小さくする構造のことです。一般的には、耐震構造より耐震性が優れており、風揺れ対策にも効果的です。制震ダンパーは、自転車のサスペンションのように外部から受けた衝撃を吸収し、スムーズな動きを保つ役割を担っています。例えば、高層ビルでは上層の揺れが増幅しますが、制震構造によって揺れが小さく感じられ、オフィス什器や機器が転倒しにくくなります。また、大地震による長時間の揺れに対しても制震構造は有効であり、免震構造よりも施工が簡単でコストも抑えられるため、中高層ビルでの採用が増えてきました。
免震構造(地震の揺れを直接受けにくくする構造)
免震構造は、地面から建物を切り離し、建物の基礎部分にある免震装置が地震の揺れを直接建物に伝えないようにする構造のことです。免震装置は、スケート靴のように地面との接触部分が揺れを吸収して滑らせることで、建物が揺れを感じにくくします。免震構造のオフィスビルは、オフィス内の機器や書類の損壊リスクが大幅に減少し、地震時の揺れをほとんど感じません。大地震のゆっくりとした大きな揺れにも効果的で、地震によって絶対に損傷を受けてはいけない重要なデータや精密機器を扱う企業に適しています。しかし、デメリットとしては免震装置の設置が専門性を有するため、初期投資と維持費用の両方が高くなることが挙げられます。
構造 | メリット | デメリット | 適したオフィスビル |
---|---|---|---|
耐震構造 | ・建設コストが安い ・メンテナンスが容易 ・地盤の影響を受けない |
・大地震では建物が損傷しやすい ・縦揺れに弱い ・長時間の揺れには不利 ・室内の耐震対策が必要 |
・一般的な中低層ビル ・コストを抑えたいビル |
制震構造 | ・地震時の揺れが小さい ・室内は比較的安全 ・建物の変形を最小限に低減 ・長時間の揺れに耐えやすい |
・耐震構造より建築費が高い ・メンテナンスが必要 ・高層ビルの揺れは完全に抑えられない |
・中高層ビル ・長時間の地震動が予想される地域 |
免震構造 | ・揺れを大幅に軽減できる ・建物内部の損傷が少ない ・揺れをほとんど感じない ・業務継続がしやすい |
・建設コストが制震構造よりも高い ・維持費用が大きい ・工期が長い |
・高層オフィスビル ・重要なデータや機器を扱う企業 |
③旧耐震基準のオフィスビルは、耐震診断・耐震補強工事の確認が必要
旧耐震基準のオフィスビルは、必ずしも地震に対して安全性が低いということではありません。旧耐震基準の建物でも新耐震基準をクリアする水準の物件が多くあります。安心してオフィスに入居するためにも、旧耐震基準のオフィスビルへの入居を検討する場合は「耐震診断の結果」と「耐震補強工事の実施」について確認してください。旧耐震基準のオフィスビルでも耐震診断に合格しているか、または不合格でも耐震補強工事を実施していれば、一定の安全性が確保されていると判断できます。ただし、旧耐震基準で建築された物件において、耐震診断を受けることは義務付けられていません。
そのため、耐震診断を受けることで高額な修繕費用の支払を義務付けられる可能性があることから、耐震診断を行っていないオフィスビルも数多く存在するので注意が必要です。
④テナント契約時の重要事項説明で耐震診断の説明を求める
重要事項説明は、不動産契約を結ぶ前に不動産仲介会社などがテナント入居者に対して、物件の重要な情報を説明する手続きです。旧耐震基準で建てられたオフィスビルが耐震診断を行っていた場合は、耐震診断の結果や耐震補強工事の実施について重要事項説明で説明義務があります。しかし、耐震診断を行うことは必須ではないので注意が必要です。
従業員の安全を確保するためのポイント
企業には従業員の安全を常に確保する義務があります。地震が発生した際には従業員の安全を最優先に行動し、被害を最小限に抑えなくてはいけません。
この章では「地震が起きた時に何をすればいいかを決めていない」という経営者や総務担当の方に対して、基本的な地震対策のポイントを説明します。このポイントを抑えて防災対策を進めることで、地震が起きた時に慌てずに対処ができるようになります。
オフィス家具の転倒防止
地震発生時にはオフィス家具が転倒し、従業員がケガをするリスクがあります。総務省消防庁の資料によると、1995年に発生した阪神・淡路大震災の内部被害によるケガの原因のうち、46%が家具の転倒や落下だったことが分かりました。
(参考:総務省消防庁「地震による家具の転倒を防ぐには」)
大量の書類や荷物が入ったキャビネットが転倒した場合は、重大な怪我に繋がります。また、大きなオフィス家具が転倒することで、大切な避難経路を塞いでしまう場合があるため、オフィス家具の固定とオフィス家具のレイアウトはとても重要です。東京都防災ホームページのオフィス家具類転倒防止対策にて以下の2つのポイントが解説されているのでご確認ください。
1.オフィス家具類を固定する
- オフィス家具は床や壁の下地である鉄骨やコンクリートにボルトで固定する
- 上下二段式の家具は上下を連結する
- 隣り合うオフィス家具同士は連結する
- 重い収納物を下に入れ、重心を下げる
2.避難場所、避難経路を確保する
- メインの避難経路は直線状に確保し、幅1.2メートル以上を確保する
- 避難経路や出入り口周辺にオフィス家具類を置かない
- 避難誘導灯がどこからでも見えるよう、遮蔽物を置かない
- いざという時にもぐり込めるよう、デスクの下は常にスペースを空けておく
災害時の対策
担当者の選定とマニュアルの策定
災害時の責任者を選出することから始めましょう。責任者に選出された従業員が「社内で防災の取組みを始めたいが、進め方がわからない」とならないように「BCP(事業継続計画)策定支援セミナー」などの参加を促します。このセミナーは、事業の早期復旧を目的に、計画の立て方やリスク評価、シミュレーションの方法について学ぶことができます。次に、責任者は防災セミナーで身に着けた知識をもとに、地震発生時の対応マニュアルを策定しましょう。
このマニュアルには、緊急時の連絡網、避難ルート、消火器や医療キットの場所などを明確に記載し、全社員に周知徹底することが大切です。定期的に対応マニュアルの見直しを行い、実際の地震発生時に確実に対応できるように備えましょう。
避難経路と避難場所の確認
地震発生時の避難経路と避難場所は、日頃から確認しておくことが大切です。従業員の命を守るために、消防法や建築基準法施行令で義務付けられている避難経路の確保を行いましょう。大量の荷物によって避難経路が塞がれていると、避難の妨げになるため避難経路は定期的に確認が必要です。避難場所は、ビル外の広域避難場所や集合場所を事前に確認し、社員全員がどこに集まるべきかを理解しておくことが重要です。
避難訓練の実施
実際に地震が起きたことを想定して避難訓練を行うことが効果的です。避難訓練では、実際の避難経路を使って訓練を行い、社員全員が素早く安全に避難できるようにシュミレーションしましょう。定期的に訓練を実施することで、社員が緊急時にも冷静に対応でき、マニュアルや計画が現実に機能するかどうかを確認する機会となります。避難訓練と同じように、緊急時の連絡についてもシュミレーションすると良いでしょう。日頃から行っていないと、いざという時に行動が遅れてしまう恐れがあります。
まとめ
従業員が安全にオフィスで働くためには、今回紹介した耐震基準や耐震構造、災害時の対策はとても重要な項目です。特に、新耐震基準を満たしているオフィスビルを選択することは従業員の安全性の面では重要になりますので、オフィス選びの際は慎重に検討ください。