セントラル空調と個別空調を徹底比較 オフィス選びに必要な選択肢
従業員の働きやすい環境作りと、オフィスにかかる費用とのバランスに悩まれてる経営者や総務担当の方は多くいらっしゃると思います。今回の記事はオフィスに欠かせない空調設備について、基本的な部分を分かりやすく説明します。快適なオフィスの環境作りとコスト削減を両立するための知識が得られる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
オフィスビルの空調設備の重要性
「何となく空調設備は重要だと思っているけど、漠然としている」という方に向けて、なぜ企業にとって空調システムが重要なのかを説明します。
空調設備の重要性を理解することでオフィス選びの成功が近づきます。
従業員の生産性と満足度の向上
働き方に合った空調設備が完備されていることで従業員の生産性が上がります。姫路市役所で行われた実証実験では、室温を28度から25度に変更したことで、前年度と比べて総残業時間が1人平均2.9時間減ったという結果がでました。(参考:日経新聞)
室内の温度や湿度が適切に保たれていない場合、従業員の集中力が低下し、結果として作業効率が悪くなることがあります。特に、夏場の過度な冷房や冬場の暖房不足は、健康問題を引き起こす原因にもなりかねません。反対に、快適な空調は従業員の生産性が上がり、残業時間が減り、プライベートの時間が充実することで従業員満足度が向上します。
省エネとコスト削減
不動産の資産管理業務を行う企業に対して行ったアンケートでは、オフィス改修を行う際に必要だと考える工事のなかで「建物の省エネルギー性能を高める工事」を必要と考える割合が82.1%で最も多い回答となりました。(参考:株式会社日本政策投資銀行・オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023)
夏場の17時ごろの空調設備の電気代は全体の約48%も占めるため、エネルギー効率のよい空調設備を導入することは、省エネ性能を高めるためには必須の項目になっています。(参考:総務省・夏季の省エネ・ 節電メニュー)
そして、最新の空調設備は15 年前のものに比べて消費電力が約2/3 程度に減るため、電気代の削減に効果があります。(参考:内閣府沖縄総合事務局・省エネハンドブック)
セントラル空調と個別空調
「どのタイプの空調が自社に合っているか分からない」と思っている方に向けて、2種類の空調システムの基本的な説明をします。メリットとデメリットを比較して、自社に合った空調システムがどちらなのか検討をしてください。
個別空調
個別空調とは?
フロアや部屋ごとに温度調節ができるタイプの空調システムのことで、小規模ビルや中規模ビルの大半が個別空調システムを採用しています。
個別空調のメリット
風量や温度を自由に設定できる
従業員に合わせて風量調節や温度調節が可能なため、事務作業をする執務室は冷房を弱くして、温度が上がりやすいサーバールームや受付スペースは冷房を強くするなどの調節ができます。個別空調でも風量や温度を自由に設定ができない場合があるため、事前に確認が必要です。
いつでも使用できて、使わない時はOFFにできる
オフィスを使う時間のみONにできるので、電気代の無駄がなく休日出勤した日や深夜残業した場合でも自由に使えます。また、使用していないフロアや部屋はOFFにできるので小まめに節電が可能。
個別空調のデメリット
基本料金にプラスして利用分の電気代が追加される
使用した分だけ電気代が追加されるため、節電意識が低い企業の場合は電気代が高くなります。個別空調の場合は、電気を使用する度に電気単価✕使用kw数で計算され料金が請求されます。基本料金がある場合は、その料金に使用分の料金がプラスされます。
部屋の数だけ設定が必要
部屋やスペースごとに温度や風量の設定が必要です。使用しないときは、電源を手動でOFFにしなくてはならず、電源の消し忘れが起こります。
セントラル空調
セントラル空調とは?
部屋やエリアごとに温度調節するのではなく、ビル全体で温度調節を行う空調システムです。セントラル空調は大型ビルで採用が多いのが特徴ですが、オフィスビル以外にも大型商業施設やホテル、病院などに多く採用されています。最新の大型ビルではセントラル空調でありながら部屋やスペースごとに最適な温度に調整できるシステムがあります。
セントラル空調のメリット
テナントは使用分の電気代がかからない
建物全体で空調を管理しているので、空調使用量は共益費に含まれていることが大半であるため、テナントは電気代を削減することが可能です。しかし、ビルが設定しているコアタイム以外の空調使用には別途料金がかかる場合があるので注意が必要となります。コアタイムは、建物全体で一律に設定されている場合もあれば、テナントごとに設定されているビルもあり、コアタイム以外の従業員の出勤がない企業にとっては電気代を抑えられるシステムといえるでしょう。
温度設定や電源ON・OFFが不要
ビル全体で電源のON・OFFや温度調節を行っているので、テナントごとに空調管理をする必要はありません。広範囲の温度管理と空気循環が得意なため、広いスペースや会議室がいくつもあるビルにはセントラル空調が適しているでしょう。
セントラル空調のデメリット
建物全体の温度しか設定できない、個々の部屋での温度調節が難しい
部屋ごとに電源のON・OFFや温度調整ができないため、特に季節の変わり目などは、従業員それぞれに合った温度にできないため、不都合がでる場合があります。比較的新しいオフィスビルでは部屋やスペースごとに温度調節ができるセントラル空調もあるため、事前に確認が必要です。
コアタイム以外は割高料金がかかる
平日の9:00から18:00などのコアタイムを設定して空調を稼働させているため、休日出勤などでコアタイム外に空調を使う場合は、割高の時間外料金が発生します。残業や休日出勤が多く、従業員の働き方が一律でない企業には不向きでしょう。
セントラル空調のデメリットを補うVAV方式(可変風量式)
古い大型オフィスビルは、CAV方式(Constant Air Volume:定風量方式)の空調設備が一般的です。CAV方式は、設定した温度を維持するために、すべての部屋に対して一定の風量で空気を送ります。そのため、部屋ごとに温度調節を行うことや、使用していない部屋の空調をOFFにすることができないため、無駄なエネルギーを使うことがありました。
それに対して、1970年から80年以降に普及したVAV方式(Variable Air Volume)は、室内の温度差をセンサーが感知して自動で風量を調節することができます。セントラル空調でありながら各部屋のスイッチで個別に風量を調整することや空調をOFFにすることができるため、部屋ごとの快適性と省エネが可能になりました。またCAV方式に比べて、VAV方式はコアタイムの設定を細かくできるため、省エネや節電、経費削減が期待されて多くの大型ビルで採用されています。
オフィスの空調設備に新しい技術
最新のオフィスビルはエネルギー効率のよい新しい技術を空調設備に取り入れています。新しい技術を知ることで、より快適なオフィス環境や節電についての理解が深まります。物件選定の際の大切な要素になりますので、最後までお読みください。
AIとIoTによる自動制御
インターネットにつながった各部屋の温度センサーや人感センサーから室温や湿度、人の動きのデータを中央の制御システムに送り、そのデータをAIが分析して最適な温度や湿度に設定する仕組みです。AIは過去のデータを学習して天候の変化や、人の行動パターンなどを予測することができるため、会議室を利用することが多い時間帯には、事前に冷房を強めるという判断が可能です。
遠隔操作・管理
インターネットを使って空調システムを監視・制御できるようにする技術です。AIとIoTによって取得した温度や湿度、人の動きなどのデータをビルから離れた場所にいる管理者が、パソコンやスマートフォンを使って空調の監視を行います。必要な場合は手動で設定温度や運転モードを調整することができます。この遠隔操作・管理技術により、複数のオフィスやビルの空調を一括して管理できるため、施設全体のエネルギー消費を大幅に削減し、運用効率を向上させることが可能になりました。
エネルギー管理システム(EMS)
EMSは、セントラル空調と連携するエネルギー管理システムのことです。EMSの管理対象の1つで、空調部門を担当するのがセントラル空調という位置づけです。建物全体のエネルギーをリアルタイムで監視し制御するために、空調や照明などの電力や水道、ガスなどのエネルギーの消費状況を一元管理しています。そのため、EMSの有無でVAV方式の空調性能やエネルギー効率に大きな差が生まれました。
EMSがない場合は、VAVユニットは各エリアごとに独自に風量を調整しますが、全体としてのエネルギー効率の最適化はできません。よって、建物全体で効率よくエネルギーを使用するためのデータ統合や最適化が難しくなり、エネルギーの無駄が発生する可能性があります。
EMSがある場合は、VAVユニットの風量調整が、建物全体のエネルギーと外気温、室内の使用状況に応じて最適化され、さらなる省エネが可能です。EMSはVAV方式の効果を最大限に引き出し、エネルギー効率が向上するため、さらにコスト削減がされます。
オフィス移転を成功に導く空調システムのチェックポイント
①働き方に合った空調システムか?
オフィスで働く時間が全従業員一律なのか、それとも部署によって異なるのか。休日出勤や深夜作業があるのかによって、セントラル空調か個別空調のどちらが適しているのかを検討しましょう。また、エリアごとに温度調整が必要なのかも、検討要因です。常に従業員が座って仕事をしている執務室と、荷物を運んだり作業をしたりする倉庫では適切な温度が違うため、オフィス内で温度調整が可能なゾーニング機能があると快適です。エリアごとに空調を独立して管理できると、社員の快適性を向上させつつ、エネルギーの無駄を抑えることができます。
②空調設備の新しさ
個別空調であれば「AIとIoTによる自動制御」や「遠隔操作・管理」の採用の有無によって、セントラル空調であればこれら2つに加えて「エネルギー管理システム(EMS)」の採用の有無によって、オフィスの快適性と消費電力に大きな差が生じます。
③メンテナンス状況
古くて整備されていない空調設備は空調効率が低く故障の原因になります。メンテナンスの状況が空調設備の性能に影響するためメンテナンス計画を確認することが重要です。
④外部との断熱性能
建物の断熱性能は、室内の空調効率に大きな影響を与えます。断熱性が低い建物では、空調システムが無駄にエネルギーを消費することになりますので、外壁素材や窓の断熱性についても確認が必要です。
⑤建物の窓側スペース(ペリメーターゾーン)の空調対策
オフィス空間では、窓側は日差しや外気温の影響を受けやすく、その他の空間に比べて高温や低温になりやすいです。大型オフィスビルのセントラル空調の場合は、空調効率の悪いペリメーターゾーンと空調効率の良いインテリアゾーンで空調を分けているビルがあります。それぞれ適切な温度設定をすることができ、どのエリアでも温度に差がなく快適に過ごせるように考えられています。
⑥空調費用の負担方法
セントラル空調の場合は、空調の使用量は共益費に含まれていることが一般的ですが、コアタイム以外の使用に関して別途費用が請求される場合があります。個別空調の場合は、自社で使用した分だけ費用が発生するので透明性が高い傾向にあります。いずれにせよ、テナントが空調費用をどのように負担するのか、事前に確認することが大切です。
まとめ
企業には従業員がより快適に働ける環境の整備と、省エネによるコスト削減を両立することが求められています。その二つのニーズに対応するために、オフィスビルの空調設備には次々と新しい技術が生み出されています。今回の記事で紹介した空調設備の新しい技術を参考に、理想のオフィス作りにチャレンジしてみてください。